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千宗守『聴松 愈好斎の茶の湯』(@岡田茂吉文庫)

岡田茂吉文庫
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こんにちは、HIROROです。

今回は岡田茂吉文庫の第16弾としまして、
千宗守『聴松 愈好斎の茶の湯』を取り上げます。

正式タイトルはこちらに「武者小路千家第十二世 愈好斎聴松宗守居士五十回忌記念」がつきます。
前回の千宗守編『新修 茶道妙境 愈好斎聴松宗守居士二十七回忌記念』でも
武者小路千家の愈好斎と岡田茂吉に親交があったことを触れましたが、
今回もその関連書籍となります。

まず注目されますのは、MOA美術館館長の吉岡庸治氏が寄せた「思ひ出」です。
吉岡氏は岡田茂吉の次女・三弥子と夫でして、
武者小路千家が運営する財団法人官休庵の理事も勤めていた
ようです。
長文となりますが全文を引用させて頂きます。

 思ひ出
 MOA美術館館長 (財)官休庵理事 吉岡庸治
 私が存知上げる愈好斎宗匠は昭和二十五年から二十七年の三年間の事でございます。
 当時、宗匠は岡田家へ御稽古におこし下さってをり、私は時々その席へ御相伴させて
 いただいて宗匠を拝する事が出来たのです。箱根美術館庭内の茶室「山月庵」は
 愈好斎宗匠の御口添へをいただいて当時高名な茶室大工であった三代木村清兵衛さん
 により昭和二十五年に完成し、その席で御稽古は行われてをりました。
 岡田茂吉翁は昭和二十七年に箱根美術館を創立開館されますので、昭和二十五、六年頃は
 展示用の古美術品を鋭意蒐集してをられた頃でした。その蒐められた御道具の中から
 御稽古にも使ってをられたので、大変贅沢な御稽古茶であったと思ひます。
 夫人達の御稽古が終わりますと、翁は山月庵に出向いて正客の座につき、
 愈好斎宗匠が御点前をなされて一服いただかれ、床の掛物や御道具について
 対話なさいました。宗匠は墨跡の事など大変おくわしく、古美術全般に御話が
 はずんで楽しい御茶の一時を過ごされたのです。私は全くの初心者でしたから、
 宗匠の御点前を拝見して、利休居士十二世の家元様の御点前を拝見した!
 と大変感激いたしました。宗匠はお静かで、優雅で、何気なく御茶を
 点てられるのですが、これこそ家元様だ、と感服したのです。
 当時は終戦後まだ五、六年目の事でしたから新幹線、高速道路はなく、
 東海道線は「つばめ号」「かもめ号」という特急列車でさへ東京、京都間は
 数時間かかりました。従って箱根、熱海へ御出張いただくと御泊りいただいて
 ゆっくりお過ごしになります。箱根の岡田家の山荘は明治の実業家藤田雷太氏の
 建てられた神山荘という明治調の山荘で、瀟洒な洋間もあり古風なピアノがありました。
 ある日愈好斎宗匠がそのピアノを弾かれたのです。御点前なさるのと同じ様な
 御召物姿でピアノに向はれ、御点前なさるのと同じ様な御様子で静かな曲を弾かれました。
 お静かに弾いてをられた時の印象が残っているだけですが、明治生れの教養高い
 文化人の優雅なおもかげをまのあたりに拝見して感慨無量でした。
 神山荘「上の間」という十数畳の客間があります。ある時愈好斎宗匠が
 御夫妻でおこしになられました。私は丁度その時神山荘に行ってをりましたので
 御夫妻を上の間に御案内して御挨拶いたしました。御天気の良い日で
 窓の外には庭の植込みの向こうに箱根の外輪山が良く見えて快適な日でした。
 御夫婦は床の間を背にして並んで座られ、窓外の箱根の風景を楽しみ乍ら
 一時を過されました。奥様は小柄で宗匠に劣らず優雅な上品な方で、
 並んで座られた御姿がそのまま小林古径さんの画の様だと思ひ、
 写真をとらせていただきましたが、その写真は茶室内の二、三枚の写真と共に
 最もなつかしい思ひ出でございます。

この他には、愈好斎と薬師寺管長の橋本凝胤と岡田茂吉が写った写真や、
箱根の山月庵の写真も数葉収録された貴重な本となっています。

(同書124~125頁より引用)

(同書159頁より引用)

①タイトル
『聴松 愈好斎の茶の湯』

②著者・編者
千宗守

③出版社
武者小路千家/財団法人官休庵

④出版年月
2002年11月

⑤サイズ
B5版

⑥頁数
251頁

⑦目次
序にかえて
 その姿、愈々懐かしー愈好斎を想うー 不徹斎 千宗守
五十回忌に寄せて
 愈好斎宗匠を偲ぶ 久田宗也
 愈好斎と茶室 中村昌生
 思ひ出 吉岡庸治
 愈好斎宗匠を憶う 藤野真作
 偉大なる愈好斎宗匠 根岸能子
 愈好斎宗匠を憶う 中村秀太良
 愈好斎宗匠の思い出 古谷幸子
 父 千澄子
図版
愈好斎とその時代
 愈好斎の生涯 大江崇之
 愈好斎宗匠と大阪を中心とした職方 木津宗詮
参考資料
 愈好斎の講演 茶道と芸術
 『太陽』コレクション19より 官休庵 愈好斎宗匠のこと 今泉篤男
愈好斎年譜
道具解説

イラスト:きーろ様(Twitter*@ki_ro_iroiro)

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